2013年12月22日日曜日

謎の極小微生物『ナノバクテリア』に関する論争に終止符 自己増殖メカニズムと病原的意義を解明

岡山大学のプレスリリース

http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id131.html

確かに論争に終止符という素晴らしい内容の研究ですが,タイトルだけ見るとナノバクテリアの存在が証明されたかのような誤解を与える可能性がありますね.思わずどきっとしてしまいました.話には聞いたことがありましたが,やはり生物であるということは否定されたようです.

未知の生物系の研究は,培養可能なものであれば,今だと次世代シークエンサーで全部読んでしまうのが手っ取り早いのではないかと思います.

2013年12月17日火曜日

本棚:ヒトは病気とともに進化した

北里大学の太田先生,総研大の長谷川先生が編集された本の一部(第二章)を執筆させていただきました.

病気の進化というと所謂「進化医学」という言葉が有名ですが,この本ではそれより一歩踏み込んだ内容が中心で,(集団)遺伝学というハードコアな分野の紹介となっています.一言で表せるような単純な分野ではなく,前提となる知識も多いのですが,導入部として,知識がほとんどなくても最初から読み通せば順を追って理解できるような作りを心掛けてみました.


2013年12月3日火曜日

著者の値段

Science誌に中国での論文著者の売買について踏み込んだ記事がありました.

China's Publication Bazaar

お金を払えば既にパブリケーションが確実な論文の共著者に加えてもらえるというサービスがたくさん存在するようです.

他にも,

データを渡せば論文を書いてくれる
データが全くなくても論文を書いてくれる
ある会社にお金を払えば,あるジャーナルに確実にアクセプトされる

などとやりたい放題のようです.データがないのに論文を書くのは気が咎める,という人にはレビューやメタ解析の論文を代筆してくれるという心配りがたまりません.

中国でこのようなことが横行している原因の一つは,採用や昇進に関してインパクトファクター若しくはSCIジャーナル至上主義が蔓延しているためであるとしています.

論文代筆は日本でも聞いたことがありますが,もし論文の中で代筆について適切に述べられていなければ不正であると考えられます.科学者がお金を払って論文を書いてもらうことについては,比較的害は少ないと言えますが,製薬企業などが自ら代筆を行い,その身元を隠ぺいする場合については重大な嫌疑がかけられます.とりもなおさず,著者に関してはギフトオーサーシップの排除を含め,公正明大にやらなければいけないということでしょう.

ちなみに,最近では論文校正を企業にしてもらった場合でも謝辞に記すべしという動きもあるようです.

2013年10月9日水曜日

遺伝子的多様性

科研費申請のシーズンです.

と,5年ほど前の自分の申請課題を見てみると大きな間違いに気づきました.以下の科研費データベースで見られるのですが,

https://kaken.nii.ac.jp/d/p/19770073.ja.html

「遺伝子的多様性」となっています.

 あわてて昔の申請書を見てみましたが,ちゃんと遺伝的多様性となっています.どこで間違ったのでしょうか... ウェブ入力の時かもしれません.ずっと記録で残るものでこれは恥ずかしい.

昔,遺伝学会に参加した時に事務の人が勝手に「遺伝子学会」と修正してたことを思い出します.

2013年8月22日木曜日

Life history trade-offs at a single locus maintain sexually selected genetic variation

Natureの記事です.

クジャクの羽やシカの角など,雄が明らかに生存に不利そうな形質を持っている生物は多く知られています.そういったものを説明するためにダーウィンは性選択という概念を提唱しましたが,実際にどのような形で淘汰が行われているかについては様々な説があり,議論の的になっています.特に,性選択がとても強ければその形質はすぐに集団中に広まってしまい,集団中に変異が見られなくなってしまうのではないかというパラドックスが存在します.

それが今回の野生のヒツジ(Ovis aries)の場合は割と簡単に説明できてしまったという話です.オスのヒツジの角の遺伝的変異はRXFP2という遺伝子の変異で大半が説明できてしまうそうです(実はそっちの発見の方がすごい気もしますが).そこで,RXFP2の遺伝子型と生存率,繁殖率の差を調べたところ,大きな角を持つタイプの遺伝子をヘテロで持つ雄が,生存率と繁殖率を合わせた適応度が一番高い(ヘテロ雄は交配では不利だが生存率が高い)ことがわかりました.つまり,この遺伝子に多様性があるのはヘテロ接合体が有利である超優性という単純なメカニズムで説明できるということです.

ただ,この研究はなぜ「性選択に関わる形質に多様性があるのか」というかなり狭い範囲の質問に答えているだけなので,そもそもなぜ角の大きいヒツジはモテるのか,という根本的な問題はまだまだ謎のようです.ともあれ,シークエンス技術の発達で色々な野生生物の遺伝子が比較的簡単に決められるようになりました.こういった面白い研究が今後さらに増えていくのではないかと思います.

2013/8/23追記

よく考えてみると,角の大きさは見てわかるので,適応度の計算は遺伝子を知らなくてもできますね.ということはこの論文のポイントはメスでは遺伝子型による生存率が変わらなかったというところでしょうか.

2013年7月2日火曜日

JSciMed Central

聞いたこともない雑誌にレビューを書きませんかといったような勧誘メールがしばしば来ます.

多くの雑誌はオープンアクセスで,誰でも閲覧できるのですが,印刷代金を研究者が支払うことによって出版社が利益を得られる仕組みになっています.

沢山の論文を発行すればそれだけ出版社は儲かるのですが(誰も論文を読まなくても!),あまり多くの論文を載せると今度は質が保てなくなるので,一定の質を保ったうえでできるだけ多くの論文を載せるのに多くの出版社が労力を払っていると思います.

ところが,最近のオープンアクセス誌の増加に伴って,質を完全に捨て去って数だけで勝負しようとしている出版社が雨後の竹の子のように湧き上がってきました.

本日もJScMed Centralというところから雑誌の編集委員のお誘いが来ました.調べてみたところウェブページは割としっかりしているように見えるのですが,出版社の所在地が怪しいなど色々と怪しい情報も飛び込んできました.

こういった怪しい雑誌は最近では「predatory journal」と呼ばれているらしいです. なかには判別が難しいものもあり,風評被害もありそうな気もしますが,こちらにリストがあります.

ググってみたところ日本語の情報があまりなかったので書いてみました.ちなみに来週から一週間SMBEでシカゴに行ってまいります.

2013年5月29日水曜日

前頭葉は大きくない

Human frontal lobes are not relatively large

http://www.pnas.org/content/110/22/9001.abstract.html?etoc

最近更新をさぼっていたのですが,ちょっと目についた面白いPNASの記事を.

細かい技術的なところは専門ではないので無視しますが,著者のグループは量的形質の系統間比較の統計解析を専門にしているところです.

結論としては,ヒトの系統で大脳前頭葉が「相対的」に大きくなっているという一般的なイメージは間違いであるとのことです.もちろんサイズ自体は大きくなっているわけですが.

2013年3月22日金曜日

オオフリシモエダジャクだと思っていた件について

The peppered moth and industrial melanism: evolution of a natural selection case study

知っているようで知らない,オオシモフリエダジャクの工業暗化に関する遺伝的研究のレビューです.

進化の例としてよく教科書に挙げられる例ですが,その遺伝学にはホールデンも注目していました.ポイントを少しだけ挙げてみると.

  • 黒い個体の頻度は増えたのだが,完全に固定はしていない.いくつか説があって,選択圧がそれほど強くない,ヘテロ接合体が有利である,他の集団からの移住率が高い,などによって説明できる.
  • 意外なことに,捕食を逃れるという以外の理由でも黒い個体は生存率が高い.黒い表現型は毒素の代謝などと関連しているかもしれない.
  • 色に関連する座位(carbonaria)は(前に取り上げた)ドクチョウの擬態に関わっている座位と進化的には同じかもしれない.

そろそろ遺伝学的な答えがゲノム解析で明らかになりそうな気がしますが,もしドクチョウとオオシモフリエダジャクで同じ座位が急激な進化に関わっているとすると,とても面白い示唆が得られそうです.

2013年3月8日金曜日

客員教授

遺伝研の客員教授であるAndrew Clark博士が先日まで三島に滞在していました.今年で3年目になり,客員教授としては最後の来訪となります.

有名な教科書を書き,数えきれないほど重要な論文を発表している方ですが,実際にお話をしてみるとそれ以上のすごみが伝わってきます.ゲノム解析,集団遺伝学,分子進化学のどの話題を振ってもすべてに的確な返事が返ってくるのでただただ驚くばかりです.彼のように方法論・技術論から実際の生物学の問題にまでほとんどすべてに精通している人はなかなか見つからないでしょう.

優しげだけれどマシンガンのようなトークと相まって,個人的には偉大なグルであると評させていただきたいと思います.(日本語なので読んでいないと思いますが)3年間どうもお世話になりました.

2013年2月6日水曜日

研究会の終了

遺伝研共同研究集会が無事に終わりました.

最初はこじんまりと行う予定でしたが,いろいろな方々のご協力のおかげで,バラエティあふれる面白い研究集会となりました.

参加されたすべての方にこの場を借りてお礼申し上げます.

3月になるとまたいっぱいゲストが遺伝研を訪れる予定です.

2013年1月31日木曜日

遺伝研共同研究集会

来週の2月4日に共同研究集会を開きます.参加は誰でも自由です.告知が遅かったので外部からの参加は難しいかもしれませんが,遺伝研の方は興味があれば是非ご参加ください.



NIG collaborative workshop: Evolutionary Genetics and Proteomics of Natural Resources in Asia

Date2013/2/4
Place: National Institute of Genetics

Organizers: Chang-Huang Chou
Co-organizers: Tzen-Yuh Chiang, Naoki Osada, Takashi Gojobori


Session 1, Chair: Naoki Osada

13:30~13:40: Opening remarks, Takashi Gojobori

13:40~14:10: Chang-Huang Chou, NCKU, The roles of allelochemicals in ecosystems complexity and human well-being

14:10~14:30: Yoko Satta, SOKENDAI, The tempo and mode of chicken evolution

14:30~14:50: Ya-Chi Lin, NCKU, Genomic study of songbirds

14:50~15:10: Masafumi Nozawa, NIG, Testing co-evolution between miRNAs and their targets in Drosophila species

15:10 ~15:20: Break

Session 2, Chair: Tzen-Yuh Chiang

15:20~15:50: Norihiro Okada, Tokyo Institute of Technology, Fighting fish project

15:50~16:10: Naoki Osada, NIG, Evolution of Rice photoperiod genes

16:10~16:30: Kousuke Hanada, Kyutech, Small open reading frames associated with morphogenesis are hidden in plant genomes

16:30~17:00: Ta-Chien Tseng, NCKU, NCKU Center for Genomic Medicine--Now and Perspective

2013年1月17日木曜日

少し遅れて

気が付けば1月も半分を過ぎてしまいました.ブログの更新も滞ってます.

最近はいろいろとやることが増えてしまって何だかよくわからなくなってきましたが,それでもひとつひとつ片づけていきたいと思います.

最近ではEncyclopedia of Life Sciences (eLS) の記事"Evolution of Gene Expression in Human and Chimpanzee Brains"のアップデートの投稿が終わりました.前の記事が5年も前のものなので,さすがに半分以上書き直さなければならず,なかなかに面倒でした.

マイクロアレイの誕生とともに,これらを用いて霊長類での遺伝子発現の進化を調べる研究が多く行われました.しかし,過去のマイクロアレイを用いた結果のいくつかは最近のRNA-seqのデータでは確認できないので,きちんと検討しなおす必要が出てくるかもしれません.