2012年7月18日水曜日

ドクチョウのゲノム

Butterfly genome reveals promiscuous exchange of mimicry adaptations among species, The Heliconius Genome Consortium Nature (2012)
 
今日は集団遺伝学のジャーナルクラブでこれをやりました.

毒を持つチョウでは一般的にベイツ型擬態( 毒の無い種がある種のマネをする)とミューラー型擬態(毒のある種が模様を共有する)が知られていますが,Heliconiusという南米に住むミューラー型擬態をするチョウのゲノム解析に関する論文です.

この属は割とよく研究されているので,基本的な発見は過去のものの焼き直しなのですが,ゲノム配列が決まったことによってより詳細に解析できるようになったというのがアピールポイントです.
同じところに住む別々の種がどうやって見た目を共有できるのかは大きな謎ですが,この種では翅 のパターンを大きく決める二か所の座位が知られています.

割と近縁な種間では,これらの座位において選択的な遺伝子流入があるということが,今回の研究でも確かめられました.捕食者(鳥)は食べてまずいチョウの模様を学習しますので,集団内に同じ模様のものがいればそれだけ食べられるリスクは減るはずです.別種から交雑により今の種にない翅パターン遺伝子が入ってきた場合,雑種の適応度が一時的に下がったとしても,生存に有利な座位だけが組み換えを経て集団中に広まることができます.したがって,ゲノム全体では分化していても,ある領域だけで見ると,別種の方が近くなっていることが予想され,実際に確認されています.

間違いなくハエよりは飼いづらい種ですが,実験室の中で交配もできるため,擬態だけでなく交配様式や毒の代謝など生物学的におもしろそうなことがいっぱいできそうな予感がします.